今回は、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の初代アドミッション・オフィスセンター長を務められた竹中平蔵名誉教授に、「AO入試の存在意義とこれから」についてお話しを伺いました。他では聞けない貴重な情報が盛り沢山です。ぜひ、最後までご覧ください。

小杉:早速ですが、AO入試に対して賛成か反対か、竹中先生の立場を明らかにした上で、 その理由をお聞かせください。

竹中:もちろん、私は賛成です。AO入試が選抜のあり方としてきわめてオーソドックスであると思っています。私自身、AO入試に携わってきた中で切に感じたことがあります。 それは選抜に長い時間をかけているということです。

ここで一般入試と比べてほしいと思います。一般入試は採点評価にほとんど時間をかけません。なぜかといいますと、センター試験などもそうですが、ほとんどがマークシート方式だからです。つまり、評価するにあたってはコンピューターで一括採点することができるのです。ポンと点数を出すだけなので、なんの判断も必要ないのです。

一方、AO入試を考えてみてください。面接だけでも大学教授が3人で約30分もかけています。延べ90分かけていることになるのです。すごいと思いませんか? これは実際に審査を担当してみるとよくわかるのですが、一般入試では知ることができない受験生の様々な側面が見えてくるのです。そういった意味で、私は本来AO入試こそ、一般的な入試方法であると考えています。

例えば、アメリカのハーバード大学などでは一般入試は行っていません。では、どのように選抜を行っているのでしょうか。 審査方法としては第一段階で「書類選考」を行い、二次選考で「面接選考」を行います。 さらにいうと、実はその前に各学校のアドミッションオフィスセンターの方々が各地の高校を視察して、有能な人材をリクルートしているのです。 それと同じ意味でAO入試はオーソドックスな入試だといっているのです。

小杉:なるほど。確かにアメリカではAO入試が当たり前になっていますが、今の日本でそれは機能しているとお考えでしょうか?

竹中:機能しているところと、そうでないところがあると思います。私はすべての事例を知っているわけではありません。 しかし、私が慶應義塾大学のAO入試を担当していた時点では、少なくとも十分に機能していたと感じています。

小杉:そうですね。私も慶應義塾大学SFCについては、日本で初めてAO入試を導入したこともあり、毎年質の高い受験生が集まっていると感じています。 では、今後、AO入試がどのように発展していくか、その方向性についてお話しいただけますでしょうか?

竹中:はい。AO入試は今後、急激に増えていくと思います。受験生の数は年々減っていきます。 今までは例えば、ある大学に10人の受験生が試験を受け、そのうち1人の合格者を出すという、完全なる買い手市場が存在していました。 しかし、大学側も真剣に努力して良い学生を採ろうとしなければ、少子化の中で経営が維持できない時代になりつつあります。 ですから、AO入試は拡大していく必要があるのです。

小杉:今後、AO入試が拡大していくとすると、それに伴うリスクもあると思います。

竹中:当然、リスクも考えられます。AO入試ではいわゆる「いい加減な選抜をしてしまうリスクもあるのです。 もちろん、一般入試であってもいい加減な選抜をすることはできるので、固有の問題ではないかもしれませんが、 特にAO入試では人員を確保するために安易な入試をしてしまうという誘惑が一般入試よりも大きくなります。 その点に関してはリスクヘッジをしていかなければならないでしょうね。

小杉:そうですね。ちょうど今、一般入試との比較が出てきましたが、AO入試は一般入試よりも「入学後、何をしたいか」といった志を汲み取ることに長けた入試ですよね。 竹中先生も志を持つことの大切さを様々な場で説かれていますが、先生が考える志とは何でしょうか?

竹中:なかなか難しい質問ですね。一口に「志」といっても、色々な種類があると思います。

例えば、「私は将来、こうなりたい」「世の中をこのように良くしたい」「この人を幸せにしたい」 など、これらすべてが志といえます。 もし、大学がそれを求めてくることを踏まえていうならば、やはり、「これを勉強することによって世の中に貢献したい」「これを勉強していくことで自分としての自立をしていきたい」 といった目標、願いこそが、まさに志なのではないかと考えます。

小杉:つまり、志は未来のビジョンが明確でなければ語れないということですね。では、そうした観点からAO入試に向く受験生、向かない受験生について、どのような人物像が見えてくるのでしょうか?

竹中:私は一般入試を記憶力だけを見る入試だと思っています。「だけ」というのはいい過ぎかもしれませんが、ほとんど記憶力を中心としている選抜だと感じています。 それに対して、AO入試は総合的な能力を見ます。ですから、それが不利な受験生とは「総合力がない人」ということになります。 よって、記憶力については抜群だけれども、総合力がないという受験生には向かないでしょう。人生において記憶力だけが試されるなどということはほとんどありませんからね。

小杉:逆に言えば、AO入試に向く受験生とは、総合力のあるバランスの取れた人ということですね。

竹中:そういうことになりますね。ただ、限られた時間での審査なので、その中できちんと自分をアピールできる表現力や人と人とのコンタクトの力が得意な人にとっては、少し実力以上に有利に見られることもあるでしょう。

しかし、そうはいっても、それも大学教授がじっくりと時間をかけて審査するので、ある程度は見抜けると考えています。ごまかしはそんなに通用しないと思いますよ。

小杉:小手先のテクニックで乗り切れるほど甘くはないということですね。ところで、竹中先生が面接官をされていた時に印象に残った受験生のエピソードはありますか?

竹中:一人、とても印象に残っている受験生がいます。
彼は岩手県からやってきた受験生だったのですが、「君は将来、なにをやりたいか」と質問をしました。すると、彼は「大学で研鑽した後、地元に帰って知事などになり、岩手を良くしたい」と答えました。
私は「そのような志を持っているのであれば、君は今までなにをやってきたのか」と続けて尋ねたところ、「地元の郷土芸能を保存するための改革活動をしてきました」と答えました。 さらに、「地元の出身である新渡戸稲造ついて、こういう勉強をしてきました」と詳しく説明してくれました。

やはり、きちんと志と行動が結びついている。この学生を私は一発で合格にしましたね。 ここでAO入試の合否の決め方の話になりますが、その方法はたくさんあると思います。 ですが、私が一番良いと思う方法は、「私はこの受験生をどうしても採りたい」と強く思う人がいたら、多数決にするのではなく、その面接官が責任を持って合格にするという決め方です。

例えば、三人の面接官で意見が分かれ、その受験生に対する他の二人の評価は低くても、一人の面接官が絶対に来てもらいたいと思った場合、 合格にするといった評価方法は良いと思っています。

小杉:突出した人間を獲得しようと思ったら、その方法は良いかもしれませんね。 ところで、その岩手出身の受験生は入学後、どのように活躍したのですか?

竹中:学生の間でリーダー的役割を担っていました。その後、政府系の機関に就職をして、今は本当に岩手県に帰っています。 最近は会っていませんが、今も地元で社会活動を続けていると思います。

小杉:そうですか。有言実行とは、素晴らしいですね。これで最後になりますが、これからAO入試を受験する受験生に対して一言、メッセージをいただけますでしょうか。

竹中:AO入試はごまかせません。ですから、背伸びをせずに受験することが大切です。各々がこれまで活動してきたことがあると思うので、その意味付けを行ってください。 あなたが何気なくやってきたことでも「実はこのような意味があるんだ」ということを一度、整理してみるのです。

そうすると、あなたがやってきたことは綿密に計画を立てたことではなかったとしても、ずっと興味を持ってやってきたことですから、それ相応の意味が見出せるはずです。 そうした「意味合い・意義付け」を改めて行うことで、あなた自身の人生が見えてくるでしょう。 それがやはり、AO入試を受けるということの良い点だと思うのですね。

小杉:わかりました。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

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